桐箪笥とトロフィーの思い出

父の実家は山梨の甲府です。
両親はすでに他界して、今は伯父家族が暮らしていますので、正月2日に墓参りもかねて年始に行くのが恒例になっています。
今年も家族そろって行ってきました。
伯父の代になって家を立て直しましたのですっかり今風の造りになっており、昔の面影はありません。
ただ一部屋だけ、わたしがこどものころの記憶が、鮮明に残っている部屋があります。
それは仏間。
4畳半の狭い部屋です。
祖父のころからあった大きな紫檀の仏壇がでんと置かれ、脇に、茶箪笥があります。
この茶箪笥がなつかしい。
当時、祖父の家に行くと、茶の間にこの桐の茶箪笥があって、その前に祖母がちょこんと座ってる、その光景を今でもはっきり覚えています。
古い桐箪笥と小さな祖母の姿がいかにも似合っていて、映画かドラマのワンシーンみたいに見えたものです。
祖父母の遺品はほとんど形見分けしたり、処分したりましたが、伯父が「これは特に思い出があるし場所も取らないから、残しておこう」と、仏間に置くことにしたのです。
仏間に移されたその茶箪笥には、当時はなかったものがあります。
それは、上にズラリと並んだトロフィーと盾です。
前の家では客間に飾ってありました。
祖父が来客にそれを見せて自慢するためです。
それらはすべてゴルフコンペで祖父が獲得した賞品です。
祖父は超がつくゴルフ好きで、畑仕事一筋で一生を終えた祖父にとって、ゴルフは唯一の趣味でもありました。
(もう一つ「酒」がありますが、これは趣味とはいえませんので。)
ただ、祖父がゴルフを始めたのは遅く、50歳近くになってから。
ところが、人一倍まじめな努力家である祖父は、研究と練習を人の10倍もして(これは祖父が自分で言っていたことですが)、もともと運動神経もよかったのでしょう、めきめき腕をあげていったそうです。
祖父のゴルフの腕前は、客観的な証拠があります。
トロフィーと盾の数です。数えたことはありませんが、全部で12、3個はあるんじゃないでしょうか。
どれも優勝か準優勝のものです。
コンペの会場でトロフィーを手に、満面の笑みを浮かべる祖父の写真がたくさん残っています。
昔の家の客間で、このトロフィーを見せられ、祖父の自慢話をながながと聞かされた人は、さぞ迷惑したことでしょう。
けれど、今、茶箪笥の上に並べられたのを見ると、祖父のおだやかでやさしい笑顔しか浮かんできません。
伯父の話では、生前、祖父がゴルフに熱中し、しょっちゅうコンペだなんだと出かけていく、高価なクラブを買ってくるのを、祖母はおもしろく思っていなかった。
それがもとでよく夫婦喧嘩していたものです。
それが、先に祖父が他界してしまうと、祖母はゴルフクラブや用品、それにトロフィーをいとおしむように大事にしていた、ということです。
「なんだだかんだいっても、いい夫婦だったんだな、と思った」と伯父は以前言っていました。
遺品のゴルフクラブセットは、物置の奥でしずかに眠っているはずです。

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